仮想世界SL~夏祭りも

(2006年10月19日 朝日新聞)

セカンドライフ(SL)

ネット上の仮想世界で建物を作り、売ったお金で現実の新居を手に入れた--。こんな夢のような話が起きている。舞台は「セカンドライフ」(SL)というオンラインサービス。全米で始まり、90を超える国から参加者が集う仮想空間だ。2006年9月中にも日本語版のサービスが始まる予定で、現実の経済や学術とも融合する空間として、注目を集めている。

ゲームではない
現実と仮想空間とのつながり

「セカンドライフはゲームではありません。参加者は常に現実と仮想空間とのつながりを考えているのです」

米リンデンラボ社
シンポジウム

SLを2003年に作り、運営する米リンデンラボ社のコーリー・オンドレイカCTOは2006年9月末、来日時のシンポジウムで、こう述べた。

アバター

観光やショッピングモール
イベント

SLに登録すると、「アバター」と呼ばれる自分の化身を与えられ、「もう一つの人生」を送ることになる。景勝地の観光やショッピングモールでの買い物から、竜との戦いといった現実には味わえないイベントまである。

CG
専用ソフト

ゲームとの最大の違いは、仮想世界を構成するCGなどを作れ、現金に交換できる点だ。リンデンラボ社がSL内にCGで用意するのは空と大地だけで、そのほかの都市、建物や衣服から、映画などの表現作品まで、すべて参加者が専用ソフトで作る。そうした創造物の売買に使われるリンデンドルという「通貨」は、米ドルとの相互交換が認められているため、現金化する道が開かれているのだ。

任天堂

携帯ゲーム「トリンゴ」

SL内で妻がファッションデザイナーとして稼ぎ、夫は都市作りに半年間従事、その建物などを売って、2人は現実での新居を手に入れた。SL内で個人が作ったゲーム「トリンゴ」が任天堂の携帯ゲームに使われヒットした。人気アバターが米有名ビジネス誌の表紙を飾った……。オンドレイカ氏は、こんな例を挙げていた。

米ドル換算
登録者約100万人

ホームページ(http://secondlife.com/)には参加者数が記されている。登録者は2006年9月18日現在で約100万人、60日以内に一度でも利用した人は約40万人。SL内で動いた1日当たりの金額が米ドル換算で発表されており、この日は約42万米ドル(約5000万円)だった。

デジタルハリウッド大学院
三淵啓自教授

SLにくわしい、デジタルハリウッド大学院の三淵啓自教授は「用意されたシナリオやルールで遊ぶゲームと異なり、参加者がそれぞれ自由に目的を決めて動ける。とりわけ、何かを作りたいクリエーター志向の人の興味を集めているようだ」と話す。

デジタル箱庭
ごっこ遊び

デジタル箱庭でのごっこ遊びにも映るが、「プロ」たちの利用も始まっている。

女性歌手レジーナ・スペクター
デュラン・デュラン

たとえば音楽。女性歌手レジーナ・スペクターはSL内に自室を構え、世界に先駆けアルバムを発表。部屋には本人似のアバターがいる。最近ではロックバンドのデュラン・デュランがSLの住民としてライブを開くと表明した。レコード会社の宣伝の一環だ。

不動産取引
仮想空間売り

物販以外にも経済活動が生まれている。最大のビジネスは不動産取引。SLを存分に楽しむには「土地」が必要になる。創造物をほかの参加者に見せる場所がいるからだ。土地を得るには基本的に上級会員になり、リンデンラボ社に一定額を納める。例えばクリエーター養成機関も持つデジタルハリウッド社が購入した256メートル四方の土地の場合、約15万円の所有権料と月2万円ほどの維持費がかかるという。しかし、取得してしまえば参加者が分割して売り出したり、貸し出したりするのは自由。現金による仮想空間売りが大きなビジネスになっているのだ。

現実と同じ物理法則
CG技能

またSLには、モノの落下や空気抵抗といった現実と同じ物理法則を適用できる仕組みも組み込まれている。このため、60余りの学術機関が教育の場などに使っているという。デジタルハリウッド社でも「学生のCG技能を磨くために利用する予定」と三淵教授。夏祭りも企画されている。

オンラインゲーム

ネット上のコミックマーケット

オンラインゲームにくわしい新清士・立命館大大学院講師はSLを「ネット上のコミックマーケット」に見立てている。既存のマンガを読むだけでは満たされない人が、自作や有名マンガの改変作を、即売する場だ。

コミケ

「金にならなくても作りたい人と一風変わったものを消費したい人が集まって、コミケは巨大なビジネスになった。デザインが米国風のSLがそのまま日本で人気を博すとは思えないが、場所だけ作り、楽しみ方を参加者にゆだねるモデルは、今のネット文化に即している。数年内に日本発の同様のサービスが生まれるはずです」

広まるセカンドライフ

(2007年3月26日 日刊工業新聞)

3次元仮想都市

米リンデン・ラボ

米リンデン・ラボが開発した3次元仮想都市“セカンドライフ”の活用が産業界で広がっている。仮想都市内で流通する通貨を現実の通貨に換金でき、登録者は全世界480万人を突破。自動車メーカーなどが新たなマーケティング媒体として注目する。半面、法規制や課税など不透明な点も多く、日本をはじめ本格的な普及はこれからになりそうだ。

ネットで生活
自らの分身(アバター)

セカンドライフに登録した人は、アニメ化された自らの分身(アバター)を作り、インターネット上の仮想都市内でさまざまなモノを創造・所有・運営して生活する。アバターは顔や体形、服装など自分そっくりにカスタマイズ可能。

チャット

ソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)

チャットによる他ユーザーとの会話やコミュニティーの形成は、ソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)に近い。セカンドライフでは独自通貨である「リンデンドル(1ドル=267リンデンドル、2007年3月21日現在)」で、土地やモノを売買可能。企業は土地を購入、販促を行う。

若者向け
高額製品の宣伝

富裕層中心に利用は広がり、男女比率は約半々。平均年齢は30歳強。これまで約1億4500万人以上がセカンドライフに足を運び、米国人が約8割を占めるという。サイト内での経済活動は1日約1億円とも言われる。若者向けの比較的高額製品の宣伝に適しそうだ。

トヨタ自動車
日産自動車

トヨタ自動車や日産自動車など各社は相次いで仮装店舗出店に乗り出した。各社がこの「第2の世界」で見いだそうとしているのは新しいスタイルのマーケティングだ。

現実さながら
巨大自動販売機

5階建ての巨大自動販売機。乗りたい色の車を選び番号を入力すると缶ジュースのように車が飛び出す。ジェットコースターのようなダブルループやスカイトラック(空の道路)で乗り心地を実感する。

仮想試乗

ニッサンアイランド

北米日産自動車がセカンドライフ内に展開するニッサンアイランドでは日産の新型車でこうしたユニークな「仮想試乗」を体験できる。カーレースゲームのようにただ自動車を走らせるだけでなく、乗車感覚で内装を細部まで見渡すことができるなど、現実さながら。

新型「セントラ」
新型「アルティマ」

設置から半年弱で約1万8000人が新型「セントラ」に試乗。北米日産自動車のスティーブ・カーホディレクターは「広告を買わなくても消費者にわれわれのメッセージが送れる」と有効性を強調。セントラや新型「アルティマ」発売に合わせ、2006年10月に他の日系メーカーに先駆け参入したセカンドライフは「認知度向上」に新風を吹き込む。

ツール
テレビCMや雑誌広告

「企業から消費者に一方的にメッセージを送る『プッシュ型』から消費者が見たいメディアを選ぶ『プル型』といった『消費者主導』にマーケティング手法が移行しつつある」。スティーブディレクターはセカンドライフを取り入れた背景を説明する。消費者が24時間365日アクセスできるのも、企業側からみると、テレビCMや雑誌広告と比べパフォーマンスの高いツールに映る。

将来はイベントも

現時点で日本版作成計画はないが「多様な新商品に活用したり、他媒体と組み合わせた商品提供も行いたい」(スティーブディレクター)と長期視点で事業を進めていく考えだ。

サイオンシティー
XA(日本名ist)、XB(日本名bB)

北米トヨタ自動車も2006年11月にセカンドライフ内に「サイオンシティー」を設置。ショールームがあり、300リンデンドルを支払えば「XA(日本名ist)」「XB(日本名bB)」「TC」といった車に試乗できる。将来は「音楽、芸術、イベントなど若者のライフスタイルに沿う演出やイベントを扱う」(広報部)ことで魅力を高めていく。

新コンセプトカー「HAKAZE」
NAGAREアイランド

コンセプトカーを出品し、ブランド戦略の一環としているのがマツダ。2007年2月、ジュネーブモーターショーに出品した新コンセプトカー「HAKAZE」をセカンドライフ上のマツダのコミュニティー「NAGAREアイランド」に出品した。

住人
1000人超

「住人」はHAKAZEに乗りNAGAREアイランド上を走り回れる。2007年2月15日から現在まで1カ月余でNAGAREアイランド住人は1000人を超えた。

マツダ
デザインコンセプトカー

マツダのローレンス・ヴァンデンアッカーデザイン本部長は「デザインコンセプトカーは実際に乗っていただくのは難しいが、コンセプトの『NAGARE』に感情移入してもらいたい。それにはセカンドライフでお客さまとコネクションを築くのが一番」とする。コンセプトカーに「乗れる」ようにすることで、デザインチームが常時顧客と直接つながるチャンネルを持つことができる。

米IBM
セカンドライフ内で社内ミーティング

用途は広がる。米IBMはグループ全体で約1000人がセカンドライフの研究に関わっている。セカンドライフ内で社内ミーティングや電話会議、製品イベントの基調講演を実施している。

日本語版サービスはこれから
セカンドライフ研究会

セカンドライフの日本語版サービス提供はこれから。日本人利用者は数万人とみられ、足場固めは進む。電通はデジタルハリウッドと組み数カ月内の日本語版サービス開始に合わせ、セカンドライフに関心のある日本企業・団体の情報交換の場「セカンドライフ研究会」を発足。マーケティング活動の法的課題や技術開発、セキュリティーを検討していく。

GMOインターネットグループ
GMOベンチャーパートナーズ

GMOインターネットグループの100%子会社でベンチャー企業支援を行うGMOベンチャーパートナーズはセカンドライフ内活動を前提に独創的アイデアに、リンデンドルで投資するファンド組成を視野に入れる。

課題
仮想都市特有の“遊び心”

普及の裏側に課題も残る。詐欺や不正行為などの取り締まりに加え、企業による過剰な広告媒体化が仮想都市特有の“遊び心”を奪う可能性もある。

mixi(ミクシイ)
日本初のSNS

高速通信網や性能の良いパソコンも必要で、手軽に参加できるSNSに比べハードルは高い。2004年2月に始めた日本初のSNSであるmixi(ミクシイ)は利用者800万人を超えた。

ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)
プレイステーション3

一方ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)が今秋に提供を始める「プレイステーション3」ユーザー向けサービス「Home(ホーム)」のように、オンライン空間上でアバターを操作するセカンドライフ同様のサービスは増えていく見込み。利用者が望む仮想都市の形は、今後競争の中で作られていくことになる。

セカンドライフと仮想通貨、デジタルハリウッド大学・大学院

(2007年4月16日 日経コンピュータ)

電通

仮想世界サービス

広大な3次元空間を闊歩して楽しむ、米国発の仮想世界サービス「セカンドライフ」。一般消費者向けの単なる娯楽ではなく、販売促進やネット通販、ネットバンキング、人材採用などビジネスにも有用な存在だとして、積極的に利用する企業が増えている。

杉山知之学長

「現在のセカンドライフは、GoogleやYouTubeが爆発的に拡大する前の状況とよく似ている。登録会員数も激増し始めた」と、国内初のセカンドライフ研究会を、大手広告会社の電通と共に立ち上げた、クリエータ向け教育機関であるデジタルハリウッド大学・大学院の杉山知之学長は話す。

世界最大の仮想世界

クライアント・ソフト

米リンデン・ラボが運営するセカンドライフは世界最大の仮想世界。2007年4月現在、全世界で525万以上の会員を抱える。クライアント・ソフトをパソコンにインストールして登録すれば、誰でも無料で利用可能だ。

日本語表示可能
チャットも日本語

会員は毎月数万単位で増加中。現在は英語版だけだが、日本語表示は可能で、チャットも日本語でできる。約7万5000人程度の日本人が登録しているとみられる。2007年前半には正式な日本語版が登場予定である。

IT関連
アーリーアダプタ層

企業がセカンドライフに着目するのは、その規模だけでなく利用者自体が魅力的だからだ。IT関連の先端技術に造詣が深く、流行に敏感な“アーリーアダプタ層”が多い。

3Dモデルをプレゼント
製品開発や販売戦略

ここで吸い上げた顧客の意見や動向を製品開発や販売戦略に生かせると判断した。すでに2006年10月には日産自動車、2007年3月にはマツダが、コンセプトカーの3Dモデルを販売促進目的でプレゼントするサービスを開始した。

ミクシィ
電通国際情報サービス(ISID)

人材発掘に格好の場所ととらえる企業も出てきた。国内最大手のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)事業者であるミクシィもその1社だ。2007年3月末までセカンドライフ内に特設ビルを設け、求人活動を実施した。大手システム・インテグレータの電通国際情報サービス(ISID)も2007年3月末に、正式な会社説明会をセカンドライフ内で実施。当初予定の2倍の約80人が参加した。

仮想通貨「リンデンドル」

ネットバンク

セカンドライフには、内部で流通する仮想通貨「リンデンドル」を、本物の「米ドル」に換金できるという特徴もある。この点に着目した複数の金融機関が、ネットバンクの活用目的で、セカンドライフへの参入の機会を探っているという。

ISID
コンサルティング業務

ISIDの渡邊信彦 執行役員金融ソリューション企画部長は「人材獲得だけでなく、セカンドライフでの活動をうまく進めるためのノウハウを蓄積することが、会社説明会を開いた目的だ」と話す。「近い将来、セカンドライフと既存の企業情報システムをどうやって連携させるかが重要になる。自らが試すことで、こういった時代に備える」(渡邊信彦氏)。ISIDは、既存システムの連携にとどまらず、セカンドライフで成功するためのコンサルティング業務も展開する方針だ。

大手企業
次々と参入

大手企業が次々と参入する中で、セカンドライフは日本で無視できない存在になりつつある。

デジハリと宮城県、コンテンツ産業振興で包括協定

(2007年9月18日 日刊工業新聞)

デジタルハリウッド

デジタルハリウッド(デジハリ、東京都千代田区、藤本真佐社長)と宮城県はこのほど、宮城県のデジタルコンテンツ産業の振興で包括協定を結んだ。3次元仮想空間「セカンドライフ」を活用し、観光PRやIT人材育成などを共同で進めていくという。

藤本真佐社長

セカンドライフ内で地場産品や観光名所などを宣伝。現実世界での地域ブランドを確立するほか、学校教育への活用の可能性も探る。またIT人材の育成でも連携し、デジハリが運営するデジタルハリウッド大学を通じて宮城県内IT企業の技術者や県職員の技能向上に結びつけていく。

宮城県が初めて
村井嘉浩知事

自治体がセカンドライフを活用するのは全国でも宮城県が初めてという。村井嘉浩知事は「2007年5月に580万人だった登録者数が、現在は950万人を超えたと聞いている。2009年-2010年には相当広がっていると思う」とセカンドライフ効果に期待。取り組みの成否は他の自治体からも注目されそうだ。

宮城県、「セカンドライフ」活用のビジネスプラン発表会開催

(2007年12月12日 日刊工業新聞)

3D仮想世界

みやぎe-ブランド確立支援事業

【仙台】宮城県は2007年12月11日、インターネット上の3D仮想世界「セカンドライフ」を活用したビジネスの可能性をアピールする目的で、関連ビジネスのプラン発表会を開いた。県が取り組む「みやぎe-ブランド確立支援事業」の一環。発表会にはみやぎe-ブランド確立支援事業で支援を受ける宮城県内企業5社が出席し、セカンドライフに関連した7つのビジネスプランを発表した。

セカンドライフを活用した住宅展示場
仮想商店街

発表会は仙台市青葉区の宮城県庁内で開かれ、宮城県内のIT企業の関係者ら約60人が参加。発表ビジネスプランは、宮城県の地元企業による仮想商店街やセカンドライフを活用した住宅展示場など。参加者はスクリーンに映し出されるセカンドライフの実演に感嘆の声を上げていた。

起業支援

宮城県では情報産業を産業政策の重点分野の一つに位置づけ、起業支援などを実施。また2007年9月に、セカンドライフを活用した人材育成事業などを行うデジタルハリウッド(東京都千代田区)とデジタルコンテンツ産業の振興で協定を結ぶなど、セカンドライフを活用した地域産業活性化を積極的に進めている。